「一度始めたことだから最後までやる」、こういった行動は私たちの生活の至るところで見られます。
実はこのような心の動きのことを「一貫性の原理(法則)」と呼び、私たちの行動の基本にもなっています。
今回はこの一貫性の原理について学び、そのデメリットについても知っておきましょう。「初志貫徹」という言葉もあるし、良い意味のように聞こえますが、果たして?
「一度始めたことだから最後までやる」、これって本当に良いことばかり……なのでしょうか?
一貫性の原理(法則)とは一体何?
「一貫性の原理(法則)」とは「人は一度した自分の態度や行動、自分で決めたことに対しては一貫性を保とうとする心の動き」のことを言います。
たとえば、あなたが見始めた2時間スペシャルのドラマ。
途中で「え、なにこれつまらないな……」なんて思っても、「でももう、30分も見てしまったしどうせなら最後まで見るか……」とついつい最後までテレビの前にいてしまう。
それで結局、「あ~! つまんないドラマだったなぁ」なんて。
これはまさに一貫性の原理にそった心の動きだといえます。
最初に「見よう!」と決めたことをひるがえすことができず、「見よう!」という一貫性を貫き通してしまったのですね。人はそれがいいことであれ、悪いことであれ、一度決めた態度を貫こうとしてしまうのです。
なぜ一貫性の原理が起こるのか?
さて、ではなぜ一貫性の原理なんてことが起きるのでしょうか?
これはごく簡単に言えば、自分の態度を変えずにいるというのはとても楽だからです。
一貫性は、言い換えれば自分の習慣だといえます。
少しわかりにくいので、たとえを使いましょう。
いつも遅寝遅起きの人が、急に早寝早起きになるのは大変ですよね。
逆に、いつも早寝早起きの人が、急に遅寝遅起きになるのは大変です。
これはどちらの人も、自分の習慣に慣れているからです。
同じように、考え方や行動には習慣があります。
「自分はいつもこういう風に考えている」
などといった考え方の癖は誰にでもあり、これはいつしか習慣化します。
そして、実は一貫性の原理が働いている時は、この習慣に単純に従っているだけなのです。要するにあまり考えていないんですね。
「とりあえず、いつもやってきたようにやればいいや」
という感じでいれば、考えることも変化の行動もしなくていい。
ほぼ自動的に今までと同じことをやり続けるというわけです。
一貫性の原理に従えば、頭を使って思考しないので、すごく楽なんですよ。
だから人はみんな「今のまま・現状維持」が基本方針になるわけです。
一貫性の原理のデメリットとは?
一貫性の原理が起きるのは、私たちにとって楽だからというのがわかりましたね。また、一貫性の原理に従って、一つの場所でキャリアを積めばそのことで評価されることもあるかもしれません。
これらのことは一貫性の原理のメリットだと言えるでしょう。
しかし一貫性の原理にはデメリットもあります。
たとえば、最初に挙げたつまらない2時間ドラマの例です。
この人は「見るって自分が決めたんだから、最後まで見なきゃ」という一貫性の原理に従ってしまったばかりに、本当に最後までそのつまらないドラマを見てしまい、2時間費やしてしまいました。
もしもこの人が途中で一貫性の原理に負けずに、「見ようかなって思ったけど、つまんないからやっぱいいや」と見るのをやめていたら、最初の30分のロスで済んだのです。
しかし一貫性の原理に従ったばかりに、この人は2時間も「つまんない」思いをした上に、時間を無駄にしてしまったのですね。
こういった、一貫性をつらぬこうとするばかりに自分にとってマイナスなことが起きることも多々ある、というのが一貫性の原理のデメリットだと言えます。
もちろん、このドラマが途中からすごく面白く展開し、
「最初はつまんなかったけど、見てよかった!」
となる可能性もあるでしょう。しかしそれはあくまで結果論(結果がわかっているからこそ言えること)なんですね。だって、あなたがそのドラマの内容を知らない限りは、ずっとつまらない可能性だってあるわけだから。
これはさまざまなシーンで言えることです。
たとえば
「今利用しているサービスの使い勝手がよくないけど、もう5年も使っているから契約更新しよう」
とか
「就職したのは最悪の職場だったけど、いつか良い上司がきて改善されるかもしれないから我慢しよう」
とかいうシーンです。
いずれも「良い未来がくるかどうかわからないのに、とりあえずそのまま」という一貫性の原理に従ってしまっています。しかし良い未来が確定でないのなら、「今」から判断して何かを自分で変えていく判断も時に大切になってくるのですよ。
ビジネスの場でも使われる一貫性の原理――「イエスセット話法」
ところで、以上のような一貫性の原理をビジネスに活かそうとする考えもあります。
特に有名なのが、最初に「イエス」と言わせる作戦です。
以下にまた例を挙げていきましょう。
営業マン「お客様は○○を使っていらっしゃいますか?」
客「うん、使っているよ」
営業マン「そうでしたか! では当然××も使っていらっしゃいますね?」
客「うん」
営業マン「実は○○と××と一緒につかうと便利な△△が発売されまして(以下営業トーク)」
客「へぇ~。いいんじゃない? △△も買うよ」
営業マン「ありがとうございます!」
このように「うん」→「うん」というイエスを引き出すことにより、そのイエスな態度を一貫させて別の商品にもイエスと言わせよう、という作戦ですね。
これを「イエスセット話法」と言います。
何度も続けて肯定的な意見(イエス!)を言うと、否定的な意見(ノー!)が言いづらくなってしまうのです。
このような技術やその応用は、ビジネスの場、特に何かを売る営業にとてもよく使われているんですね。
一貫性の原理に従うことが必ずしもいいことではない
本文中にも書きましたが、最初にいくら「こうしよう!」と決めたことでも、一貫性の原理に従ってそれを続けることが、自分にとって本当に良いことなのかはわかりません。
ただ考えるのをやめて、「今までこうだったから」という理由だけで続けているだけなのかもしれません。
「今の彼氏にはすごく不満があるけど、もう5年も付き合っているから今更別れるのもな……」
とか
「今の習い事よりも興味のある趣味ができそうだけど、どちらか選ぶのなら今のままのほうがいいのかな……」
とか。
しかし唯一言えることは、あなたが変化しない限り、おそらく何も変わらないということです。あなたが今の自分の状況を「本当につまらない」とか「まるで良くない」という風に感じているのなら、一貫性の原理に逆うことを考えてみるのもいいかもしれませんよ。