人間関係では人との距離感が大事!……とはよく聞くものの、一体どのように付き合っていくべきなのかわからなくなってしまう時もありますよね。
仲が良かったはずなのに、いつの間にか傷つけあってしまうとか、仲良くなりたいのに、よそよそしい関係になってしまうとか。
このような悩みを解決するのにヒントになるのが、「ヤマアラシのジレンマ」と呼ばれる概念です。
近づきすぎれば傷つけあい、離れ過ぎれば寂しくなる……そんな私たちのための解決法についてお教えします。
ヤマアラシのジレンマとは?
ドイツの哲学者として知られるショーペンハウアー。「ヤマアラシのジレンマ」は、彼が描いた寓話が元になっています。
寒さに震える群れのヤマアラシは、お互いに身体を温めようとしますが、その身にある針故にお互いを傷つけあってしまいます。だからといって離れると今度は冷えてしまい、いずれ凍え死んでしまう。
そこでヤマアラシたちは近づいたり、離れたりを繰り返し、ついに「傷つけ合わずに、でも温かい」ちょうどいい位置を発見したのでした。
その後、フロイトがこの寓話を受けて人間関係の距離への葛藤を「ヤマアラシのジレンマ」と名付けたのです。
現在では、人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の中でも取り上げられたことで有名になりました。
ちなみに、「ハリネズミのジレンマ」と言うこともあります。
1、ヤマアラシのジレンマで、2人の距離が近すぎる場合
2人の距離が近すぎると傷つけあってしまう――これはいったいどういう状況なのでしょうか。
人間は親しい相手に対して「私たちは分かり合っているから、これくらいのことを言っても平気な関係だ」という風に考えがちです。
たとえばそれは、
「恋人同士なんだから、毎日連絡を取り合うのは当たり前でしょう」
「親子なんだから、多少厳しいことを言ってもいいでしょう」
「親友なんだから、秘密を作ってはいけないよ」
とかいった要求の形で表れます。
しかしこのような要求は、一方にとっては「たまったもんじゃない!」ということも多々あります。
恋人同士であっても毎日連絡を取るのは息が詰まる、
親子でも厳しい言葉を言われれば傷つく、
親友でも言いたくないことだってある、
そうですよね?
そのような不満を抱えると、相手に対してどんどん辛く当たっていくようになります。
そして、ケンカで衝突するリスクが格段に高くなるのです。これが相手との距離が近すぎて、傷つけ合っているヤマアラシの状態なのですね。
2、ヤマアラシのジレンマで、2人の距離が離れすぎている場合
次に、距離が離れているという状態について考えてみましょう。
たとえば、恋人同士なのに相手の職業すら知らない、正確な年齢も知らない、聞いても教えてもらえない――このような状態だったとしたら、
「なにそれ、恋人なのにおかしくない? っていうかそれ、恋人同士って言っていいの?」
なんて思いますよね。
同じく、親子なのに娘の趣味すら知らない、大学で学んでいる専攻もわからない、聞いても教えてもらえない――このような状態だったとしたら、
「それ、本当に親子なの? よほど信頼されていないんじゃないの?」
なんて思うはず。
つまり、距離が離れているとは、「恋人」や「家族」「親友」などからイメージされる親密な状態よりも、かなりよそよそしい関係であることを指すのですね。
ただ、このような関係の場合、距離が近すぎるのと比べてケンカになることは少ないという面があります。
しかし、その分「寂しさ」を感じやすくなるのです!
距離が近い場合でも離れている場合でも、「本当は傷つけずに温まりたい(=仲良くなりたい)のに……」という気持ちがあることはまず間違いありません。だからこそ下手に働きかけてケンカになったり、時に寂しさが爆発するのですね。
ヤマアラシのジレンマの解決には、2人の試行錯誤が不可欠
ショーペンハウアーの原作では、ヤマアラシは最初こそ傷つけ合ったものの、最終的にはお互いに心地よい距離を見出しました。
これはヤマアラシたちの試行錯誤があってのことです。
「このくらいだとまだ痛いなぁ……」
「ここまで離れると暖かくないし……」
「あったあった! ここがベストポジションだ!」
という位置を見つけるには、お互いのトライが欠かせません。どちらか一方が、あるいは両方が
「この人相手だとどうしても良い距離が見出せない……やーめた!」
となってしまえば、関係は終わりを迎えます。たとえ一方が
「そんな! もう少し試してみましょうよ!」
と言ったところで、相手が諦めたらそこでオシマイで、両方の努力がなくては成立しない。
もしもあなたが相手に投げ出してもらいたくないなら、相手が諦めたくなくなるような、気遣いと優しさが必要になってくるでしょう。
ヤマアラシのジレンマを解決するために「針の長さはそれぞれに違うこと」を知る
相手が試行錯誤を続けたくなるような気遣いと優しさ――さてそれはどういったものでしょうか。
それを考えるために、まず「ヤマアラシそれぞれの針の長さ(=自分が居心地がいいと感じる人との距離の価値観)は違うこと」を知っておきましょう。
たとえば、あなたと親友とは何でも言い合える関係が心地よく、多少言い方がきつくなってもお互い気にしなかったとします。
これはたまたまあなたと親友の持っている針の長さが同じで、距離感をつかむのも簡単だったからです(言い換えれば、だからこそ親友同士になれたとも言えますね)。
しかし同じやり方で恋人と接していたら、彼があなたを避けるようになってきた……だとしたら、彼とあなたの針の長さは違うと考えられます。
このことに気がつかないと、
「話し合って解決しましょうよ!」
といっそう近づくあなたと、
「傷つけられるのはもうごめんだよ」
とばかりに離れていく相手とで、別れ話一直線になってしまうことでしょう。
もちろん、これは恋愛以外の人間関係でも同じ。
「親子の仲を絶縁!」
「親友だったけどもう絶交!」
などといった取り返しのつかない事態になる前に、相手と針の長さがそのくらいかを理解し、なるべくベターな働きかけをしていくのが解決法となるのです。
ヤマアラシのジレンマの解決法
前項で挙げた例の場合、実は彼のほうもまた「自分と相手の針の長さが違うこと」に気がついていません。
よって、「距離が近すぎる相手がおかしいんだ」と考え、相手が寂しさを感じているかもしれないなんてことは思いもよりません。
だから、先に「みんなそれぞれに針の長さは違うんだ!」と気づけたあなたから、相手に自分が今どのように感じているのかを伝えてあげましょう。
そしてうまく試行錯誤できる状態に持って行くことが大事なんですね。
距離が近すぎると感じる場合の解決法
もしもあなたが「相手と距離が近すぎて傷つけられている」と感じたら
「『親しき仲にも礼儀あり』って言葉が気に入っているの。私は傷つけられると落ち込んじゃうし、あなたを傷つけることもしたくないの」
と伝えてみましょう。
距離が遠すぎると感じる場合の解決法
逆にあなたが距離が遠すぎて寂しいと感じるなら
「そういう態度は親友(恋人・家族)なのに、よそよそしい感じで寂しいな」
と伝えてみましょう。
これらは、あなたが普段から相手に気遣いと思いやりを持って優しく接していることが大前提となっています。
普段から思いやりの持てる関係性であれば、「なんだ、相手はそう思っていたのか」と意外とあっさり解決してしまうでしょう。
気遣いと思いやりのある相手には、いい印象を持てるので「この人となら良い距離感を模索し、試行錯誤していくのも苦ではないな」と思えるというわけですね。
逆にあなたが相手に思いやりを持って接していなければ、「お前なんかの要求なんて聞くものか!」と相手が協力してくれず、お互いに試行錯誤するということができなくなってしまうんですね。
(ちなみに、思いやりについては「真の『思いやり』とは?優しいけど思いやりのない人にならないために」の記事で詳しく書いていますので、ぜひご参考に。)