人生は他者とのコミュニケーションの連続です。
時に誰かに
「なぜこれをやらないの? いいかげんにしてよ!」
なんて言いたくなる場面もありますよね。しかし相手も
「俺だって頑張ってるんだ! お前こそこっちの身にもなれ!」
なんて言い返して、気がつけば泥沼のケンカ状態に……なんてこともあります。
実はこのような衝突が起こるのは「ユー・メッセージ」という、支配的に聞こえるメッセージをお互いが使ってしまっているから。相手の心に響くのは支配的ではない「アイ・メッセージ」と呼ばれるもの。
さて、この「アイ・メッセージ」、具体的にはどのような言い方なんでしょうか?
相手の心に響くと言われる「アイ・メッセージ」って何?
「アイ・メッセージ」は「私メッセージ」とも言います。
これは問題児と親子関係の問題を改善させるための研究を行っていた、トマス・ゴードンというアメリカの心理学者が考えたコミュニケーション方法です。
ゴードンは
「子供を非行に走らせないためには、まずは親がコミュニケーション方法を始めとした正しい接し方を、子供にしなければいけない」
そう考えました。
この「アイ・メッセージ」は、何か伝えたい事がある時に主語を自分にして子供に伝えることで、より相手の心に響くメッセージとなるという話し方です。
逆に、主語を「あなた」にすることは、支配的で厳しく聞こえる「ユー・メッセージ」と言われます。
具体例で見る!「アイ・メッセージ」と「ユー・メッセージ」
「子供が部屋を散らかしたまま片付けないのを見た母親」という共通のシチュエーションで、「アイ・メッセージ」「ユー・メッセージ」それぞれに例を挙げていきましょう。
例1、ユー・メッセージ
母親「あなた、部屋を片付けなさいよ!」
子供「うるさいなぁ。今やろうとしていたとこなのに!」
例2、アイ・メッセージ
母親「部屋を片付けてくれると、私助かるなぁ」
子供「うん、わかった」
さて、違いがおわかりになったでしょうか。
ユー・メッセージは「あなたは~しなさい」という命令に聞こえるため、子供は反発したくなります。
また、「部屋を片付けないあなたはだめなやつだ」という風に、「母親が自分をマイナス評価している(→「ムカつく!」もしくは「悲しい!」)」ととらえやすくなるからですね。
一方、アイ・メッセージはどうでしょうか
アイ・メッセージでは、子供ではなく、母親自身が「助かる」という言い方をしているため、子供は「自分はマイナス評価されている」となどと思うことなく、単に事実だけを受け取ります。
命令されている感じもないので、自然と「じゃあやろうかな」という風に思いやすくなります。これがアイ・メッセージの大きなメリットであり、親子関係以外にも応用できるコミュニケーション方法なのです。
恋人同士の関係でも使える「アイ・メッセージ」の効果とは――相手の思考力や判断力を磨くチャンスに
今度はアイ・メッセージとユー・メッセージを、恋人同士の関係を例に挙げて見てみましょう。
例3、ユー・メッセージを使う彼氏
彼女「ねぇねぇ、今日こんなことがあったんだよ。聞いて聞いて」
彼氏「うん」
彼女「(彼氏にまとわりつきながら)これがこうでね、ああでね……」
彼氏「あのさぁ、お前ってうるさいよ。もっと静かにして気を遣えよ」
彼女「え!(ショックを受ける)」
例4、アイ・メッセージを使う彼氏
彼女「ねぇねぇ、今日こんなことがあったんだよ。聞いて聞いて」
彼氏「うん」
彼女「(彼氏にまとわりつきながら)これがこうでね、ああでね……」
彼氏「ごめん、今俺疲れているんだよね」
彼女「あ、そうだったんだね。ごめん」
どうやら彼氏はとても疲れているところに、彼女につきまとわれ、いろいろ話しかけられ参ってしまった様子ですね。
しかし、これについても「お前はうるさい」というユー・メッセージで伝えると、彼女に要らぬショックを与え、今後の関係に悪影響を及ぼしてしまうことが考えられます。
あくまでも「俺は今疲れている」というアイ・メッセージを使うことで、彼女にショックを与えることなく、相手に「自分が今どうしてほしいのか」を考えてもらうことができます。
この「相手に考えてもらうことができる」のはとても良いことです。
例3の場合は、彼氏は彼女に「静かにして気を遣えよ」という命令を、事実上してしまっています。つまり、ここでの唯一の正解は彼氏の「俺に気を遣え」だけであり、そこに彼女の判断は入っていません。
しかし、例4の場合、「今俺疲れている」という言葉を受けると、「じゃあ私はどうしたらいいのかしら?」という彼女の思考力や判断力が試されます。
「彼氏がこう言っているからその通りにする」ではなく「彼氏がこう言っているのを受けて、私は何をしたらいいのか考える」という構造になっているんですね。
これは、疲れている彼氏の空気を察せなかった彼女の成長を助けることにつながりますし、「俺が疲れていると言えば当然どうしてほしいか、考える能力のある君はわかるよね」という、相手の能力への信頼感も伝えられます。
彼女がそれでもピンと来ないようなら、彼氏は再び「俺は少し放っておかれたい」などと、アイ・メッセージで伝えればいいのです。
「アイ・メッセージ」を使うことで、あなたの感情は見えやすくなり、相手が親近感を抱く
あなたもよくご存知のように、気持ち・感情は目に見えないものです。
「怒っているようだ」「嬉しそうだ」などということはだいたいわかっても、感情が表に出にくい人というのもいますよね。
ですから、私たちは「相手が実際のところ何をどう感じているのか?」はわからないことが多いのです。
感情がわかりにくい人に「お前は~しろ」と命令されると、反発心もわきますし、「一体あの人は何を考えているの?」と、人間性そのものが理解できずにイライラしてしまうかもしれません。
しかし、アイ・メッセージを使うとこのことも解決できます。
「私はこう感じている」
とアイ・メッセージで表現してもらうと、「なんだそういうことだったのね」と、自分と相手がいずれも感情のある人間で同じ生き物なんだ、ということが感覚としてわかるのです。
ユー・メッセージを使い続ければ、自分の気持ちが怒りなどのネガティブなパワーで覆い隠され、
「何かあるたびにこちらを抑えつけようとする嫌な人」
というイメージになってしまい、人望を失ってしまうでしょう。
これは教員や管理職など、仕事上人を束ねる役割の人がぜひ覚えておきたいことです。
最後にやはり例で確認しておきましょう。
例5、ユー・メッセージを使う管理職の上司
上司「金曜日の会議の資料作り、早く終わらせろよ」
部下「……はい(なんだよ、こっちだって忙しい中頑張っているのに、ムカつく!)」
例6、アイ・メッセージを使う管理職の上司
上司「金曜日の会議の資料、なるべく早くできると嬉しいんだよね。ほら○○さん明日出張だから、今日中に確認取っておきたくて」
部下「そうなんですね! でも実は僕、同時並行でこっちの仕事もやってて手一杯なんです……」
上司「ああ、そうだったんだね。じゃあもう一つの仕事の方はいつもの6、7割くらいで簡単に済ませちゃっていいから、資料作りのほうを優先してやってもらえないかな? そのほうが助かる!」
部下「わかりました、それならできそうです!」
例5の上司は「早く資料作りを終わらせろ」とユー・メッセージで言うばかりで、その理由について明かしません。その結果、部下は命令されていると感じてしまい、内心反発していますね。
例6の上司は、アイ・メッセージで資料はなるべく早くもらえると「自分が嬉しいのだ」と伝え、その理由も明らかにしています。
上司が自らの手の内を明かし、「こういう理由で早くできると助かるんだよ」と自分の思いを伝えれば、空気的に部下も自分の思いや状況(ここでは「他の仕事もあって手一杯」)を言いやすくなります。
その結果お互いが「こうしよう」と工夫でき、部下の気分も悪くならず、上司は資料を手に入れやすくなるという、ウィンウィンの関係になれるのですね。
あなたも今日からアイ・メッセージを意識して使って、周囲の人達との関係を良くしていきましょう!